自動車の板金塗装の工程は、板金作業と塗装作業の2つに分かれでおり、板金職人と塗装職人によりそれぞれの作業を行います。
中には板金と塗装の両方を一人でこなせる器用な人が居ますが、それでも得意なのはどちらか一方ですので、ほとんどの場合、板金と塗装はそれぞれの職人による分業となります。
板金は、車をぶつけたり擦ってしまったことによって生じた鋼板のヘコミを専門の工具を使って叩いたり引出したりする作業です。鋼板の裏側に手が届けば裏から叩き出して成形します。しかし裏側からアプローチできない場合には、凹んだパネルにピンやワッシャーを溶接し、そこに専用工具を取り付けて外側から凹みを引き出す方法で板金を行います。
ヘコミを裏側から押し出す、あるいは叩き出すというのは、板金作業として何となくイメージしやすいかと思いますが、表から凹みを引出して板金するというのはイメージしにくいかと思いますので、お客様から修理依頼されたメルセデスベンツを例に、パネルの表から引出してヘコミを直す板金作業の工程をご説明します。
ドアパネルの凹んだ部位の塗膜をエアーサンダーで削り落として、鉄板をむき出しにします。
ヘコミを引出すためには、スタッド溶接機を使用し、一時的にへこんだ部位にワッシャーを溶接します。
ヘコミの範囲に応じてワッシャーを溶接していきます。パネルの裏側が焼けないように電流を調節して溶接します。
プルプレートという工具を使ってワッシャーを連結させ、スライディングハンマーの先端のフックを引っ掛けます。
スライディングハンマーというのは、振り下ろして叩くハンマー(トンカチ)とは逆の作用をする工具です。
穴の開いた重りに棒が通っていて、重りを手前にスライドさせてストッパーにぶつけ、その衝撃を利用してヘコミを引出す工具です。
溶接した複数のワッシャーに棒を通して、一つに束ねたプルプレートにスライディングハンマーの先端のフックを引っ掛け、重りを前にスライドさせます。
重りを後ろにスライドさせ、手元のストッパーにぶつけると、その衝撃で凹みが引き出されます。
鉄板が出過ぎてもいけないので、力任せではなく少しずつ引き出し、慎重にこの作業を繰り返し行います。
ワッシャーはそれほど強力には溶接されていないので、ペンチで捻じると簡単に取れます。必要に応じて溶接する場所やワッシャーの数を変えて引き出します。
高くなった所は、板金ハンマーでコツコツと叩いて戻します。
小さなヘコミは、先端を直接パネルに溶稙できるプーラーをスタッド溶接機の先に付け、ピンポイントで引出し板金を行います。
最初に使ったスライディングハンマーの小型版ですが、同様に重りをスライドさせてその衝撃で凹みを引出します。
手のひらで板金した面の凹凸を確認しながら、極力元の面になるように板金します。
面出しが済むと、板金によって延びてしまった鉄板を加熱して絞る作業を行います。
鉄板は延び過ぎてしまうと、その部分がベコベコした状態になり、押すと凹んだまま元に戻らなくなるほどになってしまいますので、絞り作業で鉄板を縮める必要があります。
絞り作業によって、お灸の痕のように鉄板の表面が焼けています。ワッシャーを溶接した部位も痕が残っています。
これらの痕をロロックサンダーという小さなエアーサンダーで丁寧に削り落とします。
板金した鉄板の研磨作業を行います。ダブルアクションサンダーというエアー工具を使用します。
ダブルアクションサンダーに研磨紙を付けて、粗い順に#80、#120、#180、#240と番手を上げて、それぞれのペーパー目を消しながら徐々に板金した鋼板を研ぎ上げていきます。
粗い番手でいいかげんに仕上げると後々ペーパーの目が出現してしまいますし、一方あまり細かい番手で仕上げ過ぎるとパテの密着性が悪くなりますので、板金した鋼板の研磨は#240の研磨紙で最終仕上げを行います。
これで、引出しによる板金が完了です。見た目にはへこみはすっかり元通りになっています。
鉄板を板金して面出しが終わるとパテ付け工程に入ります。
板金で仕上がった鉄板の表面をシリコンオフという溶剤できれいに脱脂洗浄します。
エアーブローしながらきれいにシリコンオフを拭き取ります。
当社ではヨーロッパ製の板金パテを使用しています。硬化するととても硬くなるので、研ぐのに苦労するのですが、その分パテ痩せなどの経年劣化が起きにくいパテです。
サクサク楽に研げるパテは、作業性は良いのでしょうが、パテ痩せが起き易いので当社では絶対に使用しません。板金パテは主剤と硬化剤の2液硬化型です。
硬化剤は主剤に対し2%の量を混ぜるのですが、多くの板金職人はこの2%を目分量で混ぜてしまいます。インターパシフィックでは修理品質を一定にするため、たとえ2%でも目分量ではなく、きちんと計量して混合することを徹底させております。
計量が済むと、パテの主剤と硬化剤を入念に混ぜ合わせます。
鉄板に板金パテを付けます。
赤外線ヒーターで加熱してパテの硬化を促進させます。
パテ研ぎでは、最初はエアー工具を使って研ぎます。
見た目では判らない僅かな歪や凹凸は、板金職人の手の平の感覚を頼りに研いで取り除きます。
プレスラインや、パネルとパネルの隙間などの細部も丹念に仕上げます。
熟練した板金職人の手の平に伝わる感触だけで酷くへこんだパネルも元通りに修復するのです。
パテを研いだ粉で極力廻りが汚れないように、エアー工具や手研ぎファイルに吸塵ホースを取り付け、集塵機でパテ粉を吸い取りながら作業を行います。
板金パテを研ぐ研磨紙は粗い順に#120、#180、#240で、それぞれの工程で前段階のペーパー目を消しながら番手を上げて研ぎ上げていきます。
研ぎ作業で生じる傷は目視では判りにくいのですが、この傷が一つでも残っていると、塗装した後に傷が出現してしまうので、研磨紙の番手を上げる前に研ぎ面にドライガイドコートという黒い粉を塗り、ガイドコートごと研ぐのです。するともし傷が残っているとそこにガイドコートが入り込み、黒い線として残りますので、その線を研いで消すことで傷を残さず仕上げることができるのです。
板金パテの研ぎの最終仕上げは、#400の研磨紙を付けたダブルアクションサンダーで行います。
インターパシフィックでは、特にパテ痩せを避けるため、ポリパテなどの柔らかいパテは一切使用しておりません。当社で厳選した板金パテだけで最後まで仕上げます。
塗装作業の際にマスキングの妨げになる車の外装部品を取り外します。外装部品の取り外しは、状況によって板金作業と前後する場合があります。
このメルセデスベンツの場合ではドアパネルとリアフェンダーパネルの板金塗装作業ですので、その2パネルを塗装するうえでマスキングがし易いように、そしてきれいに塗装を仕上げることができるように、外装部品を取り外します。
ドアパネルの塗装のためには、サイドミラー、ドアハンドル、水切りのモールを取り外します。
リアフェンダーの塗装のためには、サイドウインドウガラス及びモール、テールランプ、リアバンパーを取り外します。これらの部品がボディーに付いたままでは、部品がパネルに密着していたり、あるいはパネルとの隙間が狭すぎたりするため、この後工程で行う下処理の研ぎ作業が不十分になり、その結果塗装の密着不良が起きたり、仕上がりの美観に影響します。
外装部品を脱着すればその分工賃は発生するので、これらを脱着せずに修理費用を抑えるという方法を提案する業者さんもいるようですが、仕上がりが悪かったり、後になって塗装が剥がれてくることになりますので、当社ではお勧めしておりません。
板金作業はここまでで、この後は塗装職人による塗装の工程に入ります。そして塗装の工程が全て終わると再び板金職人が取り外した部品を車に組み付け、板金塗装修理は完了します。
大切なお車を何事も無かったかのように
大切なお車を
何事も無かったかのように
インターパシフィックは長年にわたり高級輸入車の板金塗装を数多く手掛け、技術を磨いて参りました。
難易度の高い修理に対応する最新設備を導入し、厳選した塗料や材料を使用することで、高い修理品質を実現しております。
私達は、大切なお車が「ちゃんと元通りに直るのだろうか?」というお客様の不安を安心と喜びに変えることを最大の使命と考え、完成まで一切手を抜きません。
どこをどう直したのか全く分からないように、完璧な仕事を心掛けております。