今回、お客様がフェラーリ F40のカーボン製のフロントフードカウルをぶつけて修理不能に破損してしまったため、新品部品に交換するという修理のご依頼を受けました。
写真はフェラーリ F40のフロントフードカウル新品です。定価はナント税込み2,828,700円です。さすがあのバブルの絶頂期に最高2億5千万円程の値をつけ、今にして尚中古で4千万円の値がつくスーパーカーのフードカウルです。
フェラーリのオーナーさんやフェラーリマニアのかたならご存知だと思いますが、F40の外装は全てカーボン製で、オリジナルな塗装はカーボン目(模様)が浮き出ています。逆にこのカーボン目がなければ、それは再塗装しているということになり、「フェラーリのオリジナルではない」という悪い評価になってしまうこともあります。
今回の修理に際し、依頼された最重要事項は「カーボン目が浮き出るように塗装する」ということでした。スーパーカーの修理に関しては百戦錬磨の職人にとっても、この仕事はもはや「修理」というよりも、むしろ「創作」とも言うべき領域となります。
そもそもフェラーリ F40(F50やエンツオ フェラーリも同じ)の塗装はなぜカーボン目が浮き出ているのかと言うと、それは別にカーボン目が浮き出るように塗装されているわけではなく、塗膜が痩せて素材のカーボンの模様が下から浮き出てしまっているだけなのです。しかしそのカーボン目が浮き出てしまっていることにさえ、どうやら意味がある車なので、時間と労力をたっぷりと使い意図的にカーボン目がキレイに浮き出るように仕上げなくてはなりません。
先ずこの2,828,700円也の新品部品ですが、そのままでは建て付けがまったく合いません。最初は極端な話、「違う車の部品かな」みたいな感じの代物でした。これが日本製だったら間違いなく、一発で返品です。しかしイタリア製ということを考えれば、そしてフェラーリだということを考えれば、これはなぜか不良品ではないのです。
供給された新品部品の品質に、文句を言おうが愚痴を言おうが何も始まりません。このフードカウルを完璧な形に創り上げていかなくてはならないのです。何度も何度もボディーに装着しては取り外し、あっちを削りこっちを削りして、悪戦苦闘の末、何とかフィッティングが完了しました。
裏側もなぜか余分な物が付いていて、切ったり貼ったりという具合で、まるで細部を作り直しているかの作業でした。
ひとまずここまでは板金職人の仕事です。担当した職人に「何時間くらいかかった?」と聞いたところしばらく頭の中で計算しており、「ウーン・・・、100時間位ですかねえ・・・、もっとかなあ???」との答えでした。
ここからは塗装職人の領域です。目視ではわかりませんが、職人が手のひらで触るとフードカウルの表面はデコボコしています。
最初はオービダルサンダーやダブルアクションサンダーというエアーツールを使って、フードカウルの表面を粗削りして大きなデコ(見た目ではわかりにくいが手で触るとわかる凸凹という意味の業界用語)を取ります。
次は手で研ぎます。慎重に小さなデコを取るためです。目では見えない僅な凹凸やひずみを手のひらの感覚だけで真平らに研ぎ上げてゆくのですから、これこそまさに「匠の技」です。
よく目を凝らして見るとフードカウルの表面にたくさんの素穴があります。小さいものは楊枝の先くらいの大きさの穴です。これらの素穴を二液硬化型のパテで埋める作業を行います。ヘラを使って素穴にパテをつけていきます。
素穴は数え切れないほどあるので見落としのないようにマスキングテープで目印を付けておきます。
パテが乾いたらまた研ぎます。するとまた、たくさん素穴が出てきます。何かエンドレスに続くのではないかと思えるような根気のいる作業です。
この作業を何度も繰り返しながら、表面の朱色っぽいゲルコートのようなスプレーパテのようなプライマーを極力薄くなるまで研ぎ上げていきます。写真をクリックし、画像を拡大させると小さな点々がお判りいただけるかと思いますが、これらがパテで埋めた素穴の痕です。
表面のデコがすっかり取れて、平らに研ぎあがりました。写真をご覧頂くとカーボンの地肌が見えている部分と赤い部分とがあるのがお判りいただけるかと思いますが、元がそれだけデコボコだったということです。
フードカウルの表面を充分に脱脂し、一回目のプライマーサフェーサーの塗布を行います。サフェーサーを塗布するのも塗装ブースで作業し、じっくりと加熱乾燥させます。この時点ではサフェーサーは通常より薄く塗ります。
普通の車であればサフェーサーを充分に乾燥させ、その後水研ぎをし塗装作業に入るのですが、今回のフェラーリ F40の場合には、恐らくサフェーサーを加熱乾燥させるとまた巣穴や膨れとかが出てくるので、それを想定して敢えて薄くサフェーサーを塗るのです。
ブースでの乾燥を終えフードカウルの表面を見たら、予想通りまた新たな素穴が数え切れないほどできていました。また素穴をパテで丹念に埋めて、研ぎ上げていかなくてはなりません。
振りだしに戻ってまた丹念に研ぎ作業を行い、サフェーサーを塗布するのです。後もう一回のサフェーサー塗布作業で、素穴の発生が止まってくれれば良いのですが・・・。
いずれにしましても、塗装するまでにはまだまだ気の遠くなるような手間と時間がかかりそうです。
塗装職人に「どのくらい時間かかった?」と、板金職人に聞いたのと同じ質問をしたところ、「一週間位かかりっきりだから、少なくても50時間位はかかってますかねえ・・・」とのことでした。
それにしましても、下地処理の段階にやっと辿り着いたばかりだというのに、板金と塗装の二人の職人が費やした時間の合計がすでに150時間以上とは、恐るべし!!フェラーリ F40です。
サフェーサーを塗装し、研いではまた新たに発生する素穴をパテで埋めるという作業は結局1回では済まず、同じ作業をもう1回繰り返しました。
「もうこれで最後にしてくれ~!!」と祈るように3回目のサフェーサーを塗装しました。
ブースで乾燥させましたが、どうやら祈りは通じたようで、素穴の発生はなくなりました。
手作業で丹念にサフェーサーの水研ぎを行います。季節は冬なので水の冷たさが堪えます。
いよいよ色を吹きます。「急がば回れ!」、そう肝に銘じ気の遠くなるような手間をかけてきた努力の結果が、塗装の仕上がりに全て現われます。
新品価格2,828,700円也のフロントフードカウルに相応しい満足のいく塗装ができました(自画自賛)。
電動ポリッシャーを使って塗装を磨きます。
今回はオリジナル塗装のようにカーボン目を浮き上がらせるという重要な目的があるため、
塗装の磨きと加熱乾燥を2回繰り返します。
カウルの裏側も塗装します。裏側もオリジナルと見分けがつかないように忠実に再現します。
左右のちょうどホイールハウスにあたる部分にチッピングコートを塗布し、艶消しのクロを塗装します。中央部はカーボン素材のままですが、全体に艶消しのクリアー塗料を塗装します。
完成しました!!
カーボン目もバッチリ再現することができました。でも残念なことにカーボン目の写真がどうしても撮れませんでした。
場所を変えてみたり、照明を工夫してみたりして写真を撮ったのですが、まったく映りませんでした。
尻つぼみな話しになってスイマセン。
しかし無事納車も済ませ、カーボン目の再現も仕上がりも、御依頼主様には大変喜んでいただけました。
修理代金は、フロントフードカウル以外にも修理した箇所が色々あり、今回のフードカウル交換の部分だけの金額を明確にすることができません。また今回は保険を使った修理なので、現在保険会社と価格協定中につき修理金額がまだ確定しておりません。
しかし部品価格が税込み2,828,700円なので、フードカウル交換の部分だけでも片手は超えてしまうかもしれません。
大切なお車を何事も無かったかのように
大切なお車を
何事も無かったかのように
インターパシフィックは長年にわたり高級輸入車の板金塗装を数多く手掛け、技術を磨いて参りました。
難易度の高い修理に対応する最新設備を導入し、厳選した塗料や材料を使用することで、高い修理品質を実現しております。
私達は、大切なお車が「ちゃんと元通りに直るのだろうか?」というお客様の不安を安心と喜びに変えることを最大の使命と考え、完成まで一切手を抜きません。
どこをどう直したのか全く分からないように、完璧な仕事を心掛けております。